「どうしよう・・・」

調子に乗りすぎて余計な事を言ってしまった。
悟浄の事を匂わせてしまった為に、独角ジを傷つけてしまったのでは・・・。

「あぁ・・・どうしよう。」

膝を両手で抱えそこに額をつけ、ため息をつく。
何度目かのため息をついた時、先程と同じように頭上から独角ジの声が聞こえた。

「おいおい、大丈夫か?」

「独角ジさん・・・ごめんなさい!」

「はぁ!?」

「あたし・・・あまりよく考えないで喋って・・・気を悪くさせちゃったんじゃないかと思って・・・でもそれが何なのか分からなくって・・・」

「あー・・・今そっち行くからちょっと落ち着け、な?」

そう言うときょろきょろ周囲を見渡してからひょいっと窓枠を越えて先程と同じようにあたしの隣りに腰を下ろした。

「別にお前さんは何も悪いことなんか言ってないぜ。むしろ褒めてくれたろ?」

「え?」

「いいお兄さんですね、面倒見が良さそう・・・そう言ってくれたろ?」

「はい・・・」

でもそれが独角ジの気に障ったんじゃないんだろうか。
再び暗い表情を見せるあたしの前に何やら美味しそうな物が差し出された。

「実行してみたゼ。麻花だけじゃまた腹減るだろうからお茶と一緒にコレも持ってきた。」

お盆の上に乗っているのはコップに入ったお茶と・・・肉まん!?
無言で肉まんを指差し、独角ジの方を見た。

「どうぞ召し上がれ。」

「いただきますっvvv」

今なら悟空の気持ちが物凄く良く分かる気がする・・・何だか餌付けされてる気がするけどそれでもいい!!
麻花を食べて食欲に火がついていたあたしは大きな肉まんを手に取ると躊躇わずにぱくりと噛り付いた。

「美味しいぃ〜vvv」

「そう言えば名前何ていうんだ?」

です!v」

か・・・いい名だな。」

そう言って笑ってくれる独角ジは、何処からどう見ても人の良さそうなお兄さん。



ふと独角ジがお茶しか飲んでいない事に気づきあたしは肉まんを食べる手を止めた。

「独角ジさんは食べないんですか?」

「ん?あぁ、俺はいいよ。」

でも一人だけ食べるのもなんだか寂しかったので、食べ欠けで申し訳ないけど口をつけてない所を半分に割って独角ジに差し出した。

「一緒に食べる方が美味しいですよ・・・って先に飛びついたあたしが言うのもなんですけどね。」

苦笑しながら差し出した肉まんを受け取った独角ジの表情は・・・何て言うんだろう、ビックリしたような、信じられないものを見るような目であたしを見ていた。

そっ、そんなに意外!?あたしがこういう事をやるのって!!

「・・・ちゃんは何処までアイツに似てるんだろうな。」

あたしの手から肉まんを受け取った独角ジは、何となく寂しそうな目で遠くを見つめた。

「・・・アイツって?」



多分あたしは知っている。
もしかした今の独角ジよりも知っているかもしれない。



「俺の・・・弟。」

暫しの沈黙の後、独角ジの口から出たのは思ったとおり・・・悟浄の事だった。

「じゃぁ本当にお兄ちゃんだったんですね。」

「まぁな、あんまりイイ兄貴じゃなかったけど・・・やっぱりこんな風にアイツが腹空かせてた時、俺の分の肉まんを何も言わずにアイツにやったら・・・食いたい気持ちがでかかっただろうに、ちゃんと同じように半分に割って俺にくれたんだよなぁ。」

手にある肉まんを口に放り投げてお茶を一口飲むと、独角ジは今まで見た事もない優しい目で語り始めた。

「そんで同じ様な事言ったよ。一緒に食った方が美味いってね・・・可愛いヤツだったよ、本当。」

「兄弟がいるとご飯の時、取り合いとかにはならないんですか?」

「あぁ。うちは年齢が少し離れてるからな。アイツもそんなに食べ物に執着してなかったし・・・あぁでも小さい頃は麻花を俺の分まで食った事もあったカナ?」

「何気に食い意地はった弟さんなんですね。」

「さっき麻花食ったちゃん見て思い出したんだ。アイツも初めて食った時、あまりの硬さに一回麻花に八つ当たりした事あるんだゼ。」

「八つ当たり!?」

悟浄が!?食べ物に!?

「そ、何でこんなに硬いんだよ!とか言ってな。まぁその麻花が大きな種類だったから俺が小さく砕いて食わしてやったんだよ。そしたら美味いとか言ってもっともっとってせがんでな・・・」

独角ジはそっと目を閉じ懐かしい思い出を瞼の裏で思い出しながら話してくれているんだろう。
あたしの知らない悟浄の話を聞けるのがなんだか嬉しい。

「・・・不思議だな。何でこんな話、ちゃんにしちまったんだか・・・」

「・・・そ、そうですね?」



きっと独角ジは無意識のうちにあたしの中にいる悟浄に気づいているのかもしれない。
あたしの心の中にいる悟浄が、独角ジの中にいる爾燕と話をしているのかも・・・。



「おっと・・・茶が無くなったな。今日はもうちょっとゆっくりしたい気分だな・・・もう少し付き合ってくれるか?」

「はい喜んで。」

「そんじゃお茶のお代わりを持ってきますか。」

そう言うと独角ジは先程と同様に器用に窓枠を登ると姿を消した。





先程まで曇っていた空の隙間から太陽の光が降り注ぎ、丁度あたしが座っている場所に光が当たる。
あたしは今聞いた話を思いながらそっと目を閉じた。



瞳の裏では幼い頃の爾燕と悟浄が二人仲良くおやつを食べている姿が浮かんだ。
そしてそのままあたしの意識は夢の中へと沈んで行った。






The END